HOME  >  コラム  >  人事訴訟事件及び家事事件の国際裁判管轄

コラム

人事訴訟事件及び家事事件の国際裁判管轄

弁護士 奥村浩子

  人事訴訟法等の一部を改正する法律(平成30年法律第20号)が平成31年4月1日から施行されました。この改正により,国際的な要素を有する人事訴訟事件及び家事事件について,国際裁判管轄の規定が新設されました。これまで、これらの事件については、裁判所が個別の事案ごとに、条理や解釈により管轄を有するか判断していましたが、改正により、日本の裁判所で調停、審判、訴訟等が行える事件の類型が明文で定められました。以下で,設例も交えながらご説明します。

1. 人事に関する訴えの管轄(人事訴訟法関係)

Q.海外に単身赴任中の夫が,赴任先で不貞していることを知りました。夫と離婚して慰謝料をもらいたいのですが,私(妻)と子供は日本に住んでいるので、離婚調停や離婚訴訟は日本で起こせますか。また親権の指定や財産分与、慰謝料も請求できるのでしょうか。

A.離婚調停、離婚訴訟どちらも日本でできるケースが多いと思われます。

 まず、設問の事例で、夫婦が双方日本人の場合、今回の改正で、夫妻の双方が日本国籍を有する場合は、日本の裁判所に管轄があることが明文化されました(人事訴訟法(人訴法)第3条の2第5号)。これは、双方が日本国籍を有する場合、日本語で手続きを行える日本の裁判所で訴訟を行うことが双方の便宜であるからです。

 また、夫が外国籍であっても、日本で妻と暮らしていたあとで単身赴任した、すなわち、夫妻の最後の共通の住所が日本であったのであれば、日本で離婚訴訟をすることが可能です(人訴法第3条の2第6号)。

 逆に、家族で海外に暮らしていて、夫が海外の別の場所に単身赴任になり、それを機会に妻と子供が日本に引っ越して暮らし始めたようなケースでは、夫が外国籍の場合、上記の類型には該当しません。この場合、「日本の裁判所が審理及び裁判をすることが当事者間の衡平を図り,又は適正かつ迅速な審理の実現を確保することとなる特別の事情があると認められるとき(人訴法第3条の2第7号)」という規定の「特別の事情」があるか否かによることになります。

 なお、離婚訴訟の管轄が認められる場合には、それにより生じた損害賠償請求や、親権者指定、財産分与の管轄も日本に認められます(人訴法第3条の3、第3条の4)。家事調停事件の管轄は、調停を求める事項についての訴訟事件又は家事審判事件について、日本の裁判所に管轄がある場合は管轄が認められますので(家事手続法(家事法)第3条の13第1項第1号),日本で離婚訴訟をできる場合は離婚調停も日本の裁判所で行うことができます(当事者の合意があるときも同様です(同3号))。

解説

  改正以前は,事件を処理する裁判所が個別具体的な事案ごとに,条理や先例に基づいて国際裁判管轄の有無を判断していました。そのため、日本の裁判所に管轄があるか否かの判断に時間がかかることもありましたが、今後は、この点について当事者の負担が減ることが期待されます。

事件の種類 日本に管轄が認められる要件 条文
  • 離婚の訴え
  • 離婚無効及び取消しの訴え
  • 嫡出否認の訴え
  • 認知の訴え
  • 認知の無効及び取消しの訴え
  • 父を定めることを目的とする訴え
  • 養子縁組の無効及び取消しの訴え
身分関係の一方からの訴えで,被告が日本に住んでいる。 人訴法第3条の2第1号
身分関係の双方に対する訴えで,被告の双方又は一方が日本に住んでいる。 同2号
被告が死亡時に日本に住んでいた。 同3号
身分関係の双方に対する訴えで,被告の双方が死亡し,被告の双方または一方が死亡時に日本に住んでいた。 同4号
身分関係の双方が日本の国籍を有している。 同5号
身分関係の双方の最後の共通の住所が日本で,かつ,現在も原告が日本に住んでいる。 同6号
原告が日本に住んでおり,被告が行方不明であるなどの特別の事情がある。 同7号

離婚慰謝料についても、離婚と同時に訴えを提起した場合は、日本裁判所に管轄が認められます。人訴に係る請求と当該請求の原因である事実によって生じた損害賠償に関する請求が一つの訴えで提起された場合で,人訴に係る請求の裁判管轄が認められる場合は,損害賠償に関する請求についても管轄が認められることが明文化されました。(人訴法第3条の3)。

離婚の訴えについて管轄がある場合に,その訴えとともにされる親権者指定や財産の分与に関する処分などについても管轄が認められます(人訴法第3条の4)。

日本の裁判所が管轄権を有する場合でも,当事者の衡平を害し又は適正迅速な審理の実現を図ることができない特別の事情があると認めるときは,訴えが却下されることがあります(人訴法第3条の5)。

家事調停事件の管轄は、@調停を求める事項についての訴訟事件または家事審判事件について裁判所が管轄を有するとき,A相手方の住所が日本国内にあるとき,当事者の合意があるときに、日本の裁判所に管轄が認められます(家事手続法第3条の13第1項第1号)。

2. 家事審判事件に関する管轄

Q.先日父が亡くなりました。遺産分割の話をしたいのですが,相続人である子ども3人のうち1人が海外で生活しています。日本の裁判所に遺産分割調停を申し立てることはできるのでしょうか。

A.お父上が亡くなった時の住所が日本にあれば、日本の裁判所で行うことができます。

 遺産分割審判事件の管轄は、相続に関する審判事件の一つとして、相続開始の時における被相続人の住所が日本にある場合は、日本の裁判所に管轄があるとしました(家事法第3条の11第1項)。

 なお、当事者の合意により、申し立てる裁判所を定めることもできます(家事法第3条の11第4項。)

 亡くなられた時のお父上の住所が海外であった場合、当事者間の合意がなければ、日本の裁判所で遺産分割審判を申し立てることはできません。ただし、相続財産に属する財産が日本国内にある場合には、相続財産の保存又は管理に関する処分などについては、日本の裁判所に管轄権があります(家事法第3条の11第3項)。

 なお,家事調停事件は,調停を求める事項についての訴訟事件又は家事審判事件について、日本の裁判所に管轄がある場合は管轄が認められますので(家事法第3条の13第1項第1号),遺産分割審判を日本の裁判所に申し立てることができる場合には,遺産分割調停も日本の裁判所に申し立てることができます(当事者の合意があるときも同様です(同3号))。

解説
事件の種類 日本に管轄が認められる要件 条文
  • 養子縁組の許可の審判事件
養親となるべき者又は養子となるべき者の住所が日本にある。 家事事件手続法第3条の5(以下「家事法」)
  • 死後離縁の許可の審判事件
養親又は養子の住所が日本にある。 同3条の6第1号
養親又は養子がその死亡のときに日本に住所を有していた。 同3条の6第2号
養親又は養子の一方が日本の国籍を有する場合で,他の一方がその死亡の時に日本の国籍を有していた。 同3条の6第3号
  • 特別養子縁組の離縁の審判事件
養親の住所が日本にある。 同3条の7第1号
養子の実父母又は検察官からの申立てであって,養子の住所が日本にある。 同3条の7第2号
養親及び養子が日本国籍を有する。 同3条の7第3号
日本に住所がある養子が申立人で,養親及び養子の最後の共通の住所が日本であった。 同3条の7第4号
日本に住所がある養子が申立人で,養親が行方不明であるなど特別な事情がある。 同3条の7第5号
  • 親権・子の監護に関する審判事件
子の住所が日本国内にあるとき 同3条の8
  • 未成年後見に関する審判事件
未成年者の住所が日本国内にある又は未成年者が日本国籍を有する。 同3条の9
  • 扶養の義務・監護費用に関する審判事件
扶養義務者であって申立人でない者又は扶養権利者の住所が日本にある。 同3条の10
  • 相続に関する審判事件
相続開始の時における被相続人の住所が日本国内にあった。 同3条の11第1項
当事者の合意による管轄 同3条の11第4項
  • 財産の分与に関する処分の審判事件
相手方の住所が日本にある。 同3条の12第1号
双方が日本国籍である。 同3条の12第2号
申立人の住所が日本にあり,申立人と相手方の最後の共通の住所が日本にあった。 同3条の12第3号
申立人の住所が日本にあり,相手方が行方不明であるなど特別の事情がある。 同3条の12第4号

子の監護に関する処分の審判事件とハーグ条約実施法に基づく子の返還申立事件の双方が日本の裁判所に係属した場合,最終的には裁判所の判断に委ねられますが,ハーグ条約実施法第152条は,ハーグ条約実施法に基づく子の返還申立事件が係属する旨が離婚訴訟の継続している裁判所に通知されたときは,この通知を受けた裁判所は,原則として,当該離婚訴訟に附帯するこの監護に関する処分の裁判をしてはならないと定めています。

日本の裁判所が管轄権を有する場合でも,特別の事情があると認めるときは,申立てが却下されることがあります(家事法第3条の14)。

家事調停事件の管轄は、@調停を求める事項についての訴訟事件または家事審判事件について裁判所が管轄を有するとき,A相手方の住所が日本国内にあるとき,B当事者間の合意があるときに、日本の裁判所に管轄が認められます(家事手続法第3条の13第1項)。

3. 国際裁判管轄権に関する規律が設けられていない事件とその例

(1)行政上の措置に関する事件

  • 都道府県の措置についての承認の審判事件
  • 児童福祉法28条第1項の措置

(2)日本特有の事件

  • 氏又は名の変更についての許可の審判
  • 厚生年金の按分割合に関する処分の審判

(3)管轄原因を類型的にまとめることが困難である事件

  • 夫婦財産契約による財産の管理者の変更等の審判事件
  • 任意後見契約法に規定する審判事件

 なお、国際的手続競合(同一事件について日本と外国双方の裁判所で裁判手続が申し立てられた場合の手当)について、特段の定めはおかれませんでした。

以上

ページのTOPへ