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コラム

令和3年8月施行薬機法課徴金制度の広告代理店への適用可能性

弁護士 横山 浩

1. 令和元年改正薬機法に基づく課徴金制度導入について

 令和元年改正薬機法により虚偽・誇大広告規制(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(以下「薬機法」といいます。)第66条1項)に違反する行為を対象として課徴金制度が導入され(薬機法75条の5の2)、令和3年8月1日から施行開始となりました。この導入の趣旨としては、昨今の悪質な違法業者の状況に鑑み、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律で禁止している医薬品、医療機器等の虚偽・誇大広告に関し、虚偽・誇大広告の販売で得た経済的利得を徴収し、違反行為者がそれを保持し得ないようにすることによって違反行為の抑止を図り、規制の実効性を確保する点にあります。

 課徴金納付命令が命じられると、課徴金対象行為者は、原則として、虚偽・誇大広告規制違反行為期間中における対象商品の売上額×4.5%に相当する金額を国庫に納付しなければなりません(同条1項)。

2. 令和元年改正薬機法に基づく課徴金制度の広告代理店への適用可能性について

 薬機法における虚偽・誇大広告規制の特徴としては、不当景品類及び不当表示防止法(以下「景表法」といいます。)と異なり、「何人」(薬機法第66条1項)に対しても適用されると規定されており、医薬品等の製造業者だけでなく、卸販売業者や製造業者から単に依頼を受けた広告代理店も対象となります。そのため、令和3年8月1日からの令和元年改正薬機法に基づく課徴金制度の施行に伴い、同課徴金制度の広告代理店に対する適用可能性について数多くの当事務所クライアントから御質問を受けましたので、この点について説明したいと思います。というのも、前述の薬機法の特徴に加え、景表法は、課金対象行為者が「不当表示に該当することを知らず、かつ、知らないことにつき相当の注意を怠っていないと認められるとき」は課徴金対象行為から除外していますが(景表法8条1項但書)、薬機法75条の5の2はかかる規定を設けていないため、広告代理店が薬機法虚偽・誇大広告規制違反に関し無過失であった場合にも課徴金制度の対象となるのかが実務上大きな感心があったためです。

 この点に関し、結論から申し上げますと、広告代理店による虚偽・誇大広告規制違反は課徴金制度の対象とはなりません。というのも、薬機法第75条の5の2第1項は、薬機法の虚偽・誇大広告規制に違反する行為者に対し「課徴金対象期間に『取引』をした課徴金対象行為に係る医薬品等の対価の額の合計額に100分の4.5を乗じて得た額に相当する額の課徴金を国庫に納付することを命じなければならない。」と定めておりますが、この『取引』には、製造販売業者、卸売販売業者、販売業者等が行う取引や既に市場に出荷されている化粧品や医薬部外品を販売する者が行う取引も含まれますが、新聞社、雑誌社、放送事業者、インターネット媒体社等の広告媒体事業者及びこれら広告媒体事業者に対して広告の仲介、取次ぎをする広告代理店、サービスプロバイダー等が行う取引は含まれないからです(令和3年7月6日付厚生労働省医薬・生活衛生局監視指導・麻薬対策課「課徴金納付命令に係る対価合計額の算定の方法に関するQ&Aについて」参照)。課徴金納付命令は、虚偽・誇大広告を行い医薬品等の取引をすることで得た経済的利得を医薬品等の取引を行う広告主から徴収するという制度であり、広告代理店は医薬品等の取引をしているわけではないからです。

 以上のとおり、令和元年改正薬機法に基づいても広告代理店は特段の事情がない限り、薬機法第75条の2の5に基づく課徴金制度の対象とはなりません。もっとも、これらはあくまで基本的な制度であり、今後の運用によっては例外がありえる以上、医薬品等に関する広告代理店が薬機法・景表法への抵触可能性について常に留意しなければならないことに変わりはありません。

以上

景表法の規制対象である「広告その他の表示」とは、事業者が「自己の」供給する商品・サービスの取引に関する事項について行うものであるとされており、広告代理店やメディア媒体は、商品・サービスの広告の制作等に関与していても、広告主と共同して商品等を供給していると認められない限り、そもそも供給主体性を欠くとして、景表法の規制対象となるものではないとされています(消費者庁表示対策課長西川康一編「景品表示法(第6版)」54〜55頁参照)。

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