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コラム

コーポレート・ガバナンス強化のための社外取締役の選任〜会社法改正

弁護士 萩原浩二

1.社外取締役とは、文字通り、それまで社内(子会社を含む)で役員や従業員として働いたことがない方が、その会社の取締役になる場合をいいます。

 以前は、日本の株式会社では、取締役は会社の従業員が出世して選任される場合がほとんどで、社外から取締役や監査役などの役員を迎え入れるということがあまり行われていませんでした。

 ところが、近年、企業の巨額の損失隠しやその他の不祥事が明らかになったことなどを踏まえて、会社に投資をしている株主の利益のために会社が経営されているのか監視する必要がある、いわゆるコーポレート・ガバナンス(企業統治)を強化すべき、という声が強くなってきており、ISSなどの議決権行使助言会社なども、役員選任議案に関して社外役員が含まれているのかどうかを重視する助言を行い、東京証券取引所でも、いわゆる独立役員の確保を上場会社が遵守すべき事項として規定するなどの対応がなされていました。

 このようなコーポレート・ガバナンスを強化の流れを受けて、会社法改正の検討の過程においても、上場会社において社外取締役の選任を義務づけるかどうかが議論されていました。

 結果として、社外取締役の選任の義務付けは見送られたものの、平成26年6月に成立した改正会社法では、「社外取締役を置くことが相当ではない理由」を事業報告の内容とするという法務省令の改正による対応に加えて、公開大会社である監査役会設置会社のうち、いわゆる有価証券報告書提出会社は、事業年度の末日において社外取締役を置いていない場合には、取締役は「当該事業年度に関する定時株主総会において、社外取締役を置くことが相当でない理由」を説明する義務を課す(会社法327条の2)ことにより、社外取締役の選任を促進することとされています。

 これは、社外取締役の選任について「コンプライ・オア・エクスプレイン・ルール」、つまり、ある規範に従うか、さもなければ従わない理由を説明するという、イギリスやフランスなどで採用されているルールが導入されたものと言われています。

 なお、この義務に違反して、取締役が社外取締役を置くことが相当でない理由を説明しなかった場合や、虚偽の説明をした場合には、取締役の善管注意義務違反(同330条)に違反するだけでなく、当該定時総会時に取締役選任議案が上程され決議がなされていたという場合には、当該取締役選任決議の取消事由(同813条1項1号)に該当する余地もあるとされているので、注意が必要です。

2.社外取締役の要件

(1) 現行の会社法における社外取締役の要件は、@現在、当該会社または子会社の業務執行取締役、執行役、又は支配人その他の使用人(以下「業務執行取締役等」といいます)でなく、かつ、A過去に当該会社の業務執行取締役等となったことがない、というものです。

 上記改正会社法においては、社外取締役の要件が厳格化されており、東京証券取引所が確保すべきとされる独立役員の独立性の判断基準のうち、親会社や兄弟会社の業務執行者の一部を取り込んだものになっています。

 ポイントは以下のとおりです。

●「過去、当該株式会社や子会社の業務執行取締役等になったことがない」という要件が、「就任前10年間」に限定されます。

●一方で、以下に該当する場合が新たに社外取締役の要件を満たさないこととなります。

  • A) 就任前10年の間に、当該株式会社や子会社の取締役、会計参与又は監査役ではあった方で、その職に就任する前の10年間に、当該会社や子会社の業務執行取締役等であった方
  • B) 当該会社の支配株主(個人)や、親会社の取締役や使用人であるもの(親会社の社外取締役も子会社の社外取締役にはなれないことになります)
  • C) いわゆる兄弟会社の業務執行取締役等
  • D) 当該会社の取締役や重要な使用人や支配株主(個人)の2親等以内の親族
《参考:社外監査役の要件》
  • @当該株式会社又はその子会社の業務執行取締役若しくは執行役又は支配人その他の使用人(以下「業務執行取締役等」という。)でなく、かつ、その就任の前10年間当該株式会社又はその子会社の業務執行取締役等であったことがないこと。
  • Aその就任の前10年内のいずれかの時において当該株式会社又はその子会社の取締役、会計参与又は監査役であったことがある者(業務執行取締役等であったことがあるものを除く。)にあっては、当該取締役、会計参与又は監査役への就任の前10年間当該株式会社又はその子会社の業務執行取締役等であったことがないこと。
  • B当該株式会社の親会社等(自然人であるものに限る。)又は親会社等の取締役若しくは執行役若しくは支配人その他の使用人でないこと。
  • C当該株式会社の親会社等の子会社等(当該株式会社及びその子会社を除く。)の業務執行取締役等でないこと。
  • D当該株式会社の取締役若しくは執行役若しくは支配人その他の重要な使用人又は親会社等(自然人であるものに限る。)の配偶者又は二親等内の親族でないこと。
《参考:独立性の判断基準》
  • a当該会社の親会社又は兄弟会社の業務執行者
  • b当該会社を主要な取引先とする者若しくはその業務執行者又は当該会社の主要な取引先若しくはその業務執行者でないこと
  • c当該会社から役員報酬以外に多額の金銭その他の財産を得ているコンサルタント、会計専門家又は法律専門家(当該財産をえている者が法人、組合等の団体である場合は、当該団体に所属するものをいう。)でないこと
  • d最近においてaからcまでに該当していた者
  • e次の(a)から(c)までのいずれかに掲げる者(重要でない者を除く。)の近親者
  • (a) aからdまでに掲げる者
    (b) 当該会社又はその子会社の業務執行者(社外監査役を独立役員として指定する場合にあっては、業務執行者でない取締役又は会計参与(当該会計参与が法人である場合は、その職務を行うべき社員を含む。以下同じ。)を含む。)
    (c) 最近において前(b)に該当していた者

3.「相当な理由」について

 改正会社法のポイントは「社外取締役を置かない理由」ではなく「置くことが相当でない理由」を説明させるものとしているところです。

 これは、「本来、社外取締役を置くべきであるが、会社にとって、社外取締役を置くことが相当ではないという場合にのみ、置かないことができる」という認識が背景にあることは明らかで、単に、コストがかかるとか、人材が不足しているというような理由だけでは、「置くことが相当でない理由」にはならないと考えられます。

 上記改正会社法では、改正の理由として、「社外取締役等による株式会社の経営に対する監査等の強化並びに株式会社及びその属する企業集団の運営の一層の適正化等を図るため」と説明されていますから、社外取締役には、コーポレート・ガバナンスを強化するという役割ないし機能が期待されていることがあきらかです。

 このような社外取締役の機能は、有価証券報告書提出会社以外の会社でも期待できるのですから、上場会社以外にも社外取締役が選任されることが望ましいといえます。

4.社外取締役の選任義務化が見送られた理由としては、社外取締役の人材確保が困難であるということが主としてあげられていました。

 今後、上記のような条件をクリアーしつつ、会社の経営についての見識を有し、大所高所から経営者に対して有意義な意見を述べられるような立場にある人材に出会うことは難しいかもしれませんし、コストの負担についても悩ましい問題かもしれません。

 しかし、上記改正会社法の附則では、「政府は、この法律の施行後二年を経過した場合において、社外取締役の選任状況その他の社会経済情勢の変化等を勘案し、企業統治に係る制度の在り方について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて、社外取締役を置くことの義務付け等所要の措置を講ずるものとすること。」と規定されていますし、コーポレート・ガバナンスの強化については、これからますます要請が強くなってくるはずですから、上場企業に限らず、上場を目指している企業や、第三者からの出資を受け入れて事業を拡大しようとする企業にとっては、社外取締役の選任が必要不可欠となるものと思われます。

5.弁護士は、コンプライアンス(法令遵守)は得意だが、コーポレート・ガバナンスには疎いと思われがちですが、当事務所の弁護士は、企業法務部出身者や法務部出向経験者が多数在籍しており、「営業が稼ぐことを支援しつつ、考えられるリスクに対処する」というコーポレート・ガバナンスの支援を実践してきた経験がありますから、社外監査役だけでなく、社外取締役としても十分企業のお役に立てるものと考えております。

以上

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