クレーマー対策
弁護士 澤田 和也
クレーマー対策を構築していますか?
お客さまや市民の圧力に負けて過大なサービスをしてしまった,面倒な相手方との交渉に嫌気がさして要求をすべて受けてしまった,企業や行政にとって損失であり,窓口となった担当者には大きなストレスがかかります。企業も行政もクレーマー対策は必須です。
クレーマーによる要求は,企業が出している商品やサービス,あるいは行政サービスの不備に対する苦情に乗じる形でなされるものです。ごくふつうの消費者が交渉していくうちにだんだんとエスカレートしていく場合も少なくありません。
では,「不当な要求」とは何でしょうか。要求内容が不当な場合と要求行為の態様が不当な場合とがあります。
要求内容が不当な場合とはどのような場合か。たとえば商品に不備があった場合であれば,それは契約不適合責任(瑕疵担保責任)の問題です。すなわち,お客さまは,商品に契約不適合(瑕疵)があれば代替品を求め(商品の取替請求),あるいは損害賠償を求める(代金の返還請求)ことができるわけです。お客さまがこうした権利を主張することは認められなければなりません。
しかし,商品の取替えに加えて,お詫びとしてさらに追加の商品を無償で提供するように求めたり,商品代金の10倍の金銭の支払を求めてきたりした場合はどうでしょうか。それは法的にみてお客さまが有する権利の範囲を超えていると言わざるをえません。それはもはや権利行使ではなく,不当な要求であるといえます。
次に,要求態様が不当であるとはどういう態様か。クレーマーは,通常の顧客がとる行動をとりません。この一言に尽きます。具体的には,次のようなものです。
- 自分が被った損害をおおげさに表現する
- 自らが被害者であることを過度に強調する
- 対応が悪いとしつこく非難する
- 責任者を呼べ,上の者を出せと繰り返す
- 社員教育はどうなっているとさらに問題点を広げる
- 一筆お詫びを書けと追い込む
- 道義的責任があると言い続け,法的責任の話をしない
- 通常の顧客が受け入れる落とし所を拒否しつづける
- 話がまとまりそうになったところで新たな要求を出す
クレーマーによる「不当な要求」の多くは,要求行為の態様が不当な場合と要求内容が不当な場合が併存する形でなされます。態様が不当かどうか,要求内容が不当かどうかは,いずれも法的な判断を伴うものです。どこまでが正当な権利行使であり,どこからが不当であるのか,しっかりと把握することがきわめて重要であり,対応のベースとなります。限界事例で判断がむずかしい場合には法律専門家にご相談いただく必要があるでしょう。
お客さまや市民の要求が「不当な要求」であると判断される場合,どう対応すべきでしょうか。正当な権利主張には応じなければなりませんが,「不当な要求」には応じる必要がありません。法的にみて正当な権利の範囲を超えるものについて応じる義務はないからです。
ここで,問題となるのが,お客さまは神様であり,行政は市民に仕えるものであるという行動原理です。お客さまや市民の訴えには真摯に応えるのが企業や行政の使命であり,それ自体はまちがっていません。しかし,この行動原理はあくまでも基本原理であり,「不当な要求」がなされる場面では修正されるべきなのです。
また,企業や行政のミスがきっかけとなっていることが多いことから,企業や行政の窓口となっている担当者には負い目があります。正当な権利主張には応じなければならないものですから,どうしても交渉態度が弱くなりがちです。クレーマーはまさにここを突いてくるわけです。
そこで,交渉に臨む場合には,法的に適正な責任の範囲を認識することが重要であり,正当な要求はここまで,ここから先は不当な要求というように,きちんと把握したうえで,対応しなければなりません。
基本的な心構えは,毅然とした態度をとることだといわれています。毅然とした態度とは,どういうことか。大声で断るとか,厳しい口調で断るとか,必ずしもそういうことではありません。丁寧で,穏やかな,誠実な口調でありながら,何ができ,何ができないのか,結論を明確に伝え,その結論がブレないようにする,これが毅然とした態度ということです。
また,合意にもちこもうと焦ることも禁物です。「不当な要求」に対して合意に至る必要はないわけですから,交渉の結果は平行線でよいと考えるべきです。「納得してもらおう」とか,「間違いに気付いてもらおう」とか,相手に何かを期待しないことです。最初から相当時間がかかることを覚悟してください。
そして,最終的な解決のためには,訴訟や調停等の法的な紛争解決手段による法的な解決しか方法がありません。
クレーマー対応は,全社的にあるいは庁全体となってとりくむべき課題です。決して窓口担当者一人に任せてはいけません。クレーマーによる不当要求の疑いがある場合には,躊躇することなく,法律専門家に相談しながら,場合によっては窓口になってもらうことを検討してください。クレーマー対策は必須です。
以上