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コラム

労働者供給・請負・労働者派遣

弁護士 安部史郎

1昨今、人材育成や経済状況に応じた雇用関係の柔軟化といった目的のため、他社の人材を自社に受け入れ、あるいは自社の人材を他社に送り込むスキームが検討される機会が増えています。このようなスキームは、従業員にとっても、キャリアアップや多様な働き方の実現に資するものとなりうる一方、方法によってはいわゆる「偽装請負」といわれる違法な手段になりかねません。そのため、慎重な検討が必要です。

2まず念頭に置くべきは、職業安定法です。「供給契約に基づいて労働者を他人の指揮命令を受けて労働に従事させること(職業安定法4条7号)」を「労働者供給」といいますが、労働者供給を業として行うこと1及び供給を受けて自らの指揮命令の下に労働させることは、いずれも禁止されています(職業安定法44条)。

(平成30年1月 厚生労働省職業安定局「労働者供給事業業務取扱要領」)

 この規定に違反すれば1年以下の懲役又は100万円以下の罰金が科されます(職業安定法64条9号)。刑罰の対象は、行為者(懲役刑及び罰金刑)と、法人、代表者、代理人、使用人その他の従業者(罰金刑)です(職業安定法67条)。

 労働者供給が禁止されるのは、歴史的に、労働者供給が強制労働や中間搾取(いわゆるピンハネ)の温床になっていたからです。

1「業として行う」とは、一定の目的をもって同種の行為を反復継続的に遂行することをいい、1回限りの行為であったとしても反復継続の意思をもって行えば事業性があります(平成30年1月付厚生労働省職業安定局「労働者供給事業業務取扱要領」)。会社の事業として行うものは、「業として行う」ものに該当します。

3注文主が受注者に対して仕事の完成を発注し、その対価として報酬を支払う契約を、請負契約といいます(民法632条)。労働者供給は、外部委託や業務処理請負といった請負の形式で行われることもありますので、適法な請負と労働者供給とを峻別する必要があります。

(平成30年1月 厚生労働省職業安定局「労働者供給事業業務取扱要領」)

4一方、外部委託や業務処理請負の中には、発注先の従業員に対して発注元が指揮監督するものがあります。このような形態は、本来、労働者供給に該当するものですが、社会的なニーズを踏まえて、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律(労働者派遣法)が制定され、労働者派遣法の規制の下、適法化されています。すなわち、労働者派遣とは「労働者派遣法を遵守する限り適法化された労働者供給」ということになります。

(平成30年1月 厚生労働省職業安定局「労働者供給事業業務取扱要領」)

労働者派遣にあたる場合には、労働者派遣法で求める労働者派遣事業の許可を得て行う必要があります(労働者派遣法5条1項)。許可を得ずに派遣事業を行った場合、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金が科されます(労働者派遣法59条2号)。刑罰の対象は、行為者(懲役刑及び罰金刑)と、法人、代表者、代理人、使用人その他の従業者(罰金刑)です(労働者派遣法62条)。許可のない派遣事業主から労働者派遣の役務提供を受けることは禁じられていますが(労働者派遣法24条の2)、罰則はありません。

5このように様々な契約関係や法律が問題になるので、従業員を他社に異動させることについて「何か問題なのではないか」「偽装請負なのではないか」といった疑問は生じても、一体どの法律のどの要件が問題になるのかがわからなくなってしまうことがあります。そこで、以下のとおり問題点を整理しました。

(1)決定的に重要なのは、適法な請負にあたるか、それとも職業安定法に定める労働者供給に該当するかの区別です。このことを第一に意識する必要があります。
 そして、労働者供給ではあるが労働者派遣にあたる場合には、労働者派遣法の要件を満たすことができれば、労働者供給を適法化することができます。

(2)X社の社員をY社に送り込む場合、労働契約と指揮命令関係の相関関係のパターンごとに、結論は次のとおりになります。

パターン 労働契約 指揮命令関係 結論
X社 X社 請負契約
一部又は全部がY社に移転 通常は労働契約とともにY社に移転 労働者供給契約
X社 Y社に移転 労働者派遣契約

(3)このうち、「AかBか」が「請負か労働者供給か」の問題になります。労働契約が、X社との間で維持されておらず、Y社に移転しているのが労働者供給(B)です。
 これについては、職業安定法施行規則4条の4において、請負の形式であっても、次の4要件を満たしていない限り、労働者供給(B)にあたるものとされています。

@作業の完成について事業主としての財政上及び法律上の全ての責任を負うものであること。

A作業に従事する労働者を、指揮監督するものであること。

B作業に従事する労働者に対し、使用者として法律に規定された全ての義務を負うものであること。

C自ら提供する機械、設備、器材(業務上必要なる簡易な工具を除く。)若しくはその作業に必要な材料、資材を使用し又は企画若しくは専門的な技術若しくは専門的な経験を必要とする作業を行うものであつて、単に肉体的な労働力を提供するものでないこと。

(4)次に、「AかCか」が「請負か労働者派遣か」の問題になります。労働契約がX社との間で維持されたまま、指揮命令関係のみY社に移転しているのが労働者派遣(B)です。
 これについては、昭和61年4月17日労働省告示第37号「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」により、次の諸要件を満たしていない限り、労働者派遣(C)にあたるものとされています。労働者派遣契約にあたる場合は、労働者供給を適法化するために、労働者派遣法の規定に服する必要があります。

1自己の雇用する労働者の労働力を自ら直接利用するものであること。

(1)業務の遂行に関する指示その他の管理を自ら行うものであること。

@労働者に対する業務の遂行方法に関する指示その他の管理を自ら行うこと。

A労働者の業務の遂行に関する評価等に係る指示その他の管理を自ら行うこと。

(2)労働時間等に関する指示その他の管理を自ら行うものであること。

@労働者の始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇等に関する指示その他の管理(これらの単なる把握を除く。)を自ら行うこと。

A労働者の労働時間を延長する場合又は労働者を休日に労働させる場合における指示その他の管理(これらの場合における労働時間等の単なる把握を除く。)を自ら行うこと。

(3)企業における秩序の維持、確保等のための指示その他の管理を自ら行うものであること。

@労働者の服務上の規律に関する事項についての指示その他の管理を自ら行うこと。

A労働者の配置等の決定及び変更を自ら行うこと。

2請負契約により請け負った業務を自己の業務として当該契約の相手方から独立して処理するものであること。

(1)業務の処理に要する資金につき、すべて自らの責任の下に調達し、かつ、支弁すること。

(2)業務の処理について、民法、商法その他の法律に規定された事業主としてのすべての責任を負うこと。

(3)単に肉体的な労働力を提供するものでないこと(@またはAのいずれかを満たしていること)。

@自己の責任と負担で準備し、調達する機械、設備若しくは器材(業務上必要な簡易な工具を除く。)又は材料若しくは資材により、業務を処理すること。

A自ら行う企画又は自己の有する専門的な技術若しくは経験に基づいて、業務を処理すること。

以上を図示すると、次のようになります。

以上

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