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コラム

所有者不明土地問題に関連した法改正について@
〜長期間経過後の遺産分割の見直し,相続登記等の義務化〜

弁護士 長森 亨

 令和3年4月21日に「民法等の一部を改正する法律」(令和3年法律第24号),「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」(令和3年法律第25号)が成立しました。

  かねてから相続等によって所有者が不明となった土地の処理が問題となっていたことに対応して,このような所有者不明土地の「発生の予防」と「利用の円滑化」の両面から,総合的に民事基本法制の見直しを行ったものです。

 改正項目は多岐にわたっていますが,本コラムでは,通常の相続等にも影響を及ぼす可能性のある重要な改正点として,以下の3点を解説したいと思います。

  • @長期間経過後の遺産分割の見直し
  • A相続登記の申請義務化
  • B住所等変更登記の申請義務化
1. 長期間経過後の遺産分割の見直し

(1)改正の内容

 所有者不明土地には,相続開始時から長期間が経過し,遺産分割が行われないまま数次相続が発生して相続人が多数の場合があり,土地・建物の管理,処分,利活用等に困難を生じさせているという問題が指摘されていました。

 また,このような所有者不明土地を管理,処分するために遺産分割を行おうとしても,長期間放置された後の遺産分割では,具体的相続分による分割に関して,証拠等が散逸しているため,共有状態の解消に困難が生じるという問題がありました。

 そこで,相続開始時から長期間経過した場合の遺産分割を合理的に処理するために,相続開始の時から10年を経過した後の遺産分割には,民法903条(特別受益)から904条の2(寄与分)の規定を適用しない(新設,民法904条の3)こととされました。

 このため,相続開始後10年を経過すると,特別受益及び寄与分を考慮した具体的相続分ではなく,法定相続分又は指定相続分での遺産分割が行われることになります。

 ただし,10年の間に遺産分割の請求ができない事情があったり,遺産分割の手続中に10年を経過してしまう場合もあるため,以下の@Aの場合は例外とされています。

 @相続開始時から10年を経過する前に家庭裁判所に遺産分割の請求(調停又は審判の申立て)をしたとき(民法904条の3,1号)

 A相続開始時から10年の期間満了前6箇月以内に,相続人に遺産の分割をすることができないやむを得ない事由があり,その事由が消滅した時から6箇月を経過する前に家庭裁判所に遺産分割の請求(調停又は審判の申立て)をしたとき(同2号)

 なお,相続人全員が具体的相続分による遺産分割を合意している場合にまで,法定相続分による遺産分割を強制する必要はないため,全員が合意している場合には,裁判所はその合意に沿って遺産分割を行うことになると考えられています。

(2)経過措置

 上記の改正は改正法の施行日前に相続が開始した遺産分割にも適用があるとされています(附則3条)。本改正の施行日は改正法の公布日(令和3年4月28日)から2年以内とされています(附則1条1号)。

 ただし,上記例外@の場合には,相続開始時から10年を経過するとき又は施行日から5年を経過するときのいずれか遅いときとなります。

 したがって,施行日から5年以上前に相続が発生している場合は,施行日から5年以内に遺産分割の請求をする必要があり,施行日から5年前までに相続が発生している場合は,改正法を適用して,当該相続開始日から10年を経過するまでの間に遺産分割の請求をする必要があります(下図参照)。

 上記例外Aの場合は,相続開始時から10年満了後に改正法の施行日から5年の期間が満了する場合は,施行時から5年となります。

 したがって,上記例外@と同様に,施行日から5年以上前に相続が発生している場合は,施行日から5年の期間の満了を「相続開始の時から始まる10年の期間の満了」と扱うことになり,施行日から5年前までに相続が発生している場合は,改正法を適用して,当該相続開始日から10年の期間の満了が「相続開始の時から始まる10年の期間の満了」となります。

2. 相続登記の義務化

 所有者不明土地が発生する大きな要因の一つが相続登記の未了にあることを踏まえて,所有者不明土地の発生を抑止するため,相続登記が義務化されることになりました。

 これに伴い,相続登記を簡略化するための方策や相続人申告登記制度が新たに設けられています。

 主な改正点は以下のとおりです。

(1)相続登記の義務化(不動産登記法76条の2)

@ 不動産の所有権の登記名義人が死亡し,相続により当該不動産の所有権を取得した者(相続させる遺言の承継者を含む)は,自己のために相続の開始があったことを知り,かつ,当該所有権を取得したことを知った日から3年以内に,所有権移転登記の申請をしなければなりません。相続人に対する遺贈による場合も同様です(同条1項)。

A 法定相続分による登記を行った後又は相続人申告登記(後記(3))を行った後に,遺産分割を行った場合,当該相続分を超えて所有権を取得した者は,遺産分割の日から3年以内に登記を申請しなければなりません(同条2項,76条の3 4項)。

(2)相続登記等の簡略化(新設)

@ 法定相続分での相続登記後,遺産分割協議等による登記は,更正の登記により,かつ, 登記権利者が単独で申請することができることになります(登記実務の運用により対応)。

A 相続人に対する遺贈による所有権移転登記は,所有権移転登記の共同申請主義(不動産登記法60条)の例外として登記権利者が単独で申請することができることになります(同法63条3項)。

(3) 相続人申告登記制度(新設,不動産登記法76条の3)

 前記(1)@の規定により所有権移転登記の申請義務を負う者は,法務省令で定めるところにより,登記官に対し,所有権の登記名義人について相続が発生したこと及び自らがその相続人である旨を申出ることができ,登記官は,職権で当該申出人の氏名及び住所その他の事項について所有権の付記登記を行う制度が新設されます。

 この場合,当該申出人は前記(1)@の申請義務を履行したものとみなされます。

(4)経過措置

 相続登記の義務化は改正法の施行日前に相続の開始があった場合にも適用されます。施行日前の相続開始の場合,上記(1)@若しくはAの該当日又は施行日のいずれか遅い日から3年以内に所定の登記申請等を行う必要があります(附則5条6項)

 本改正の施行日は,改正法の公布日(令和3年4月28日)から3年以内です(附則1条2号)。

(5)罰則

 正当な理由なく申請義務を怠ったときは,10万円以下の過料に処されます(不動産登記法164条1項)。

 この改正により,改正法の施行日前に発生した相続による登記をそのままにしていた方も,施行日から3年を経過する前に@法定相続分による相続登記を申請するか,A相続人申告登記の申出をしないと,過料に処される可能性がありますので注意が必要です。

3. 住所等変更登記の義務化

 これまでは,登記名義人の氏名,名称,住所について変更があった場合に,その変更の登記の申請は義務づけられていませんでした。このため,変更の登記申請がなされないまま放置されると所有者の所在を容易に把握することができなくなり,所有者不明土地の発生原因の一つとなっていました。

 そこで,所有者不明土地(建物)の発生を抑止し,不動産登記情報の更新を図る観点から,住所等の変更登記申請が義務づけられることとなりました(新設)。

(1)改正内容

 所有権の登記名義人の氏名,名称,住所について変更があったときは,その変更日から2年以内に,当該変更の登記の申請をしなければなりません(不動産登記法76条の5)。

(2)経過措置

 住所等変更登記の義務化は改正法の施行日前に氏名等の変更があった場合にも適用されます。この場合,変更日又は施行日のいずれか遅い日から2年以内に所定の登記申請を行う必要があります(附則5条7項)

 本改正の施行日は,改正法の公布日(令和3年4月28日)から5年以内です(附則1条3号)。

(3)罰則

 正当な理由なく申請義務を怠ったときは5万円以下の過料に処されます(法164条2項)。

 この改正により,改正法の施行日前に転居,婚姻・離婚による住所,氏の変更等が生じたまま,その変更の登記申請をしていなかった場合には,施行日から2年を経過する前に変更の登記申請をしないと,過料に処される可能性がありますので注意が必要です。

以上

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