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コラム

育児・介護休業法の改正について

弁護士 安部 史郎

 女性の就業継続を支援し、男性による育児に関与を高めること等を目的として、令和3年6月に、育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(育児・介護休業法)が改正されました1。改正法は、令和4年4月1日、令和4年10月1日、令和5年4月1日の3段階で施行されることになっています。特に、令和4年4月1日及び令和4年10月1日に施行される法改正は、全ての会社が対象になっていることに注意が必要です。

【令和4年4月1日施行】

1. 育児休業を取得しやすい雇用環境の整備の義務化

 育児休業と産後パパ育休(令和4年10月1日施行。以下同じ)の申し出が円滑に行われるようにするため、事業主は以下のいずれかの措置を講じなければなりません(法22条1項、規則71条の2)。
複数の措置を講じることが望ましいとされています(指針第二・六の二(二))。

  • @育児休業・産後パパ育休に関する研修の実施
  • A育児休業・産後パパ育休に関する相談体制の整備(相談窓口設置)
  • B自社の労働者の育児休業・産後パパ育休取得事例の収集・提供
  • C自社の労働者へ育児休業・産後パパ育休制度と育児休業取得促進に関する方針の周知

 @については、育児休業の制度が複雑化していることから、現在の制度を確認する良い機会になると捉えることができます。全ての労働者に対して実施することが望ましく、少なくとも管理職の者については研修を受けたことがある状態にすべきとされています(通達第9・6(3))。厚生労働省のウェブページに参考になる動画や資料が公開されており、参考になります。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000130583.html

 Aの相談窓口の設置は、育児休業を取り扱う部署に設置することが考えられ、比較的取り組みやすいでしょう。ただし、窓口を形式的に設けるだけでは足らず、実質的な対応が可能な窓口が設けられていることが必要になります(通達第9・6(4))。

 Bの育児休業取得事例の収集・提供や、Cの育児休業制度及び取得促進方針周知については、厚生労働省が公開している「育児・介護休業等に関する規則の規定例」に書式が公開されているので、これをもとに準備することが考えられます。
https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/000685055.pdf

 Bについては、書類配布やイントラネットへの掲載等、Cについては書類配布、事業所内やイントラネットへの掲載等が想定されています(通達第9・6(5)(6))。

2. 妊娠・出産(本人または配偶者)の申し出をした労働者に対する周知・意向確認の措置

 本人または配偶者の妊娠・出産等を申し出た労働者に対して、事業主は、育児休業制度等に関する以下の事項を知らせ、休業取得意向について確認をしなければいけません(法21条1項、規則69条の3第1項)。

  • @育児休業・産後パパ育休に関する制度
  • A育児休業・産後パパ育休の申出先
  • B育児休業給付に関すること
  • C労働者が育児休業・産後パパ育休期間について負担すべき社会保険料の取り扱い

 周知と意向確認は、それぞれ、@面談(オンライン面談を含む)、A書面交付、BFAX(労働者が希望した場合)、C電子メール等(労働者が希望した場合)のいずれかの手段で行う必要があります(規則69条の3第2項)。

 取得を控えさせるような形で周知や意向確認をすることは認められません(指針第二・五の二(一))。
これらについても、「育児・介護休業等に関する規則の規定例」に周知と意向確認に利用できる書式が掲載されています。

3. 有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和

 育児休業の場合、有期雇用労働者については、@引き続き雇用された期間が1年以上で、A1歳6か月まで(なお、介護休業の場合は、介護休業開始予定日から起算して93日を経過する日から6月を経過する日まで)の間に契約が満了することが明らかでないことが取得の要件になっていましたが、このうち、@の要件は撤廃されました(法5条1項)。ただし、引き続き、雇用された期間が1年未満の労働者は、無期雇用労働者と同様、労使協定の締結により除外することが可能です(法6条1項但書)。

【令和4年10月1日施行】

 産後パパ育休(出生時育児休業)の創設・育児休業の分割取得

 男性の育児休業取得促進のために子の出生直後の時期における柔軟な育児休業の枠組みとして、出生時育児休業(産後パパ育休)制度が新設され(法9条の2第1項)、育児休業が分割取得できるようになるなど(法5条2項)、利用しやすくなる改正がされました。厚生労働省が公表している一覧表等をもとに整理すると、次のとおりになります。

  令和4年10月1日〜 現行
  産後パパ育休 育児休業制度
対象期間・取得可能日数 子の出生後8週間以内に4週間まで取得可能 原則子が1歳
(最長2歳)まで
原則子が1歳
(最長2歳)まで
申出期限 原則休業の2週間前まで(法以上の取組みの実施を労使協定で定めている場合は1か月前まで) 原則1か月前まで 原則1か月前まで
分割取得 分割して2回取得可能(初めにまとめて申し出ることが必要) 分割して2回取得可能(取得の際にそれぞれ申出) 原則分割不可
休業中の就業 労使協定を締結している場合に限り、労働者と事業主の合意した範囲内で、事前に調整した上で休業中に就業することが可能。ただし、休業期間中の所定労働日・所定労働時間の半分、休業開始・終了予定日を就業日とする場合は当該日の所定労働時間数未満にしなければならない。 原則就業不可 原則就業不可
1歳以降の延長   配偶者の育休終了日の翌日以前の日を育休開始日にすることができる。 育休開始日は1歳、 1歳半の時点に限定
1歳以降の再取得   産休等の対象だった子が死亡したとき等の特別な事情がある場合に限り再取得可能 再取得不可(1回のみ)

【令和5年4月1日施行】

 育児休業の取得の状況の公表の義務付け

 常時雇用する労働者数が1000人超の事業主に対し、育児休業の取得の状況について、厚生労働省令で定める男性の育児休業等の取得率又は育児休業等及び育児目的休暇の取得率等の公表が求められる予定となっています。

1 以下、「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」を「法」、「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律施行規則」を「規則」、「子の養育又は家族の介護を行い、又は行うこととなる労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするために事業主が講ずべき措置に関する指針」を「指針」、厚生労働省通達「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律の施行について」を「通達」といいます。

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