民法(家族法制)等の改正A
〜共同親権と単独親権の判断基準(令和8年4月1日施行)〜
弁護士 長森 亨
令和6年5月17日に成立した令和6年法律33号の民法の改正により、これまで離婚後は単独親権しか選択できませんでしたが、新たに共同親権を選択することも可能になりました。これに伴い、父母の協議で親権者を定めることができないときは、離婚訴訟等で裁判所が父母の双方または一方を親権者と定めることになりました。
本コラムでは、裁判所がどのような判断基準で共同親権にするか単独親権にするかを判断することになっているのか、制度の枠組みを簡単にご紹介したいと思います。
なお、この改正法は、令和8年4月1日から施行されることになっています。
旧民法819条1項は、父母が協議上の離婚をするときは、「父母の一方を親権者と定めなければならない」と定め、同条2項は、裁判所上の離婚の際は、「裁判所が、父母の一方を親権者と定める」と定めて、いわゆる離婚後単独親権制度が採用され、離婚後に父母双方が親権者となることは例外なく一律に許されていませんでした。
しかし、令和6年法律33号の民法の改正では、父母の離婚後も、父母双方が適切な形で子の養育に関わりその責任を果たすことが、子の心身の健全な発達のため望ましいとの考えから、いわゆる選択的共同親権制度が導入されました。この改正により、父母が協議離婚をする際は協議で父母の双方又は一方を親権者と定めることとされ、裁判上の離婚の際は、裁判所が、父母の双方又は一方を親権者と定めることとされました(新民法819条1項、2項)。
離婚後の親権者を父母双方とするか(共同親権)、その一方とするか(単独親権)については、個別具体的な事情に即して、子の利益の観点から最善の判断をすべきであると考えられており、原則・例外といった関係はないとされています。
父母が協議離婚に当たって離婚後の親権者を定める場合は、父母双方の協議により親権者を双方にも一方にも定めることができ、特段の基準は設けられていません。
裁判上の離婚にあたっては、裁判所が「父母の双方又は一方を親権者と定める」(民819条2項)こととされており、裁判所が共同親権とするか単独親権とするかを定める際の判断基準については新民法819条7項が定めています。
新民法819条7項 |
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| 裁判所は、第二項又は前二項の裁判において、父 母の双方を親権者と定めるかその一方を親権者と 定めるかを判断するに当たっては、子の利益のた め、父母と子との関係、父と母との関係その他一 切の事情を考慮しなければならない。 | 総合考慮(柱書前段) |
| この場合において、次の各号のいずれかに該当するときその他の父母の双方を親権者と定めることにより子の利益を害すると認められるときは、父母の一方を親権者と定めなければならない。 | 必要的単独親権事由包括的事由(柱書後段) |
| 一父又は母が子の心身に害悪を及ぼすおそれがあると認められるとき。 | 例示的事由(1号) |
| 二父母の一方が他の一方から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動(次項において「暴力等」という。)を受けるおそれの有無、第一項、第三項又は第四項の協議が調わない理由その他の事情を考慮して、父母が共同して親権を行うことが困難であると認められるとき。 | 例示的事由(2号) |
(1)裁判所が考慮すべき事情(新民819条7項柱書前段)
新民法819条7項は、前段の柱書において、裁判所が父母の双方を親権者と定めるか、その一方を親権者と定めるかを判断するに当たっては、「子の利益のため、父母と子との関係、父と母との関係その他一切の事情を考慮しなければならない」と定めており、@父母と子との関係、A父と母との関係、Bその他一切の事情を子の利益の観点から総合的に考慮して定める旨を明らかにしています。
(2)必要的単独親権事由(新民819条7項柱書後段)
ア 新民法819条7項柱書後段の規定
他方で、同項の柱書後段は、「次の各号のいずれかに該当するとき」と「その他の父母の双方を親権者と定めることにより子の利益を害すると認められるとき」には、「父母の一方を親権者と定めなければならない」として、裁判所が単独親権を定めなければならない事由について定めています(必要的単独親権事由)。
「次の各号のいずれかに該当するとき」については、@「父又は母が子の心身に害悪を及ぼすおそれがあると認められるとき」(同項1号)、A「父母が共同して親権を行うことが困難であると認められるとき」(同項2号)という具体的な事由が定められており、これらは「その他の父母の双方を親権者と定めることにより子の利益を害すると認められるとき」(同項柱書後段)という包括的な事由の例示と位置づけられています。
イ 必要的単独親権事由の具体的な内容
@例示的事由(同項1号)
「父又は母が子の心身に害悪を及ぼすおそれがあると認められるとき」(同項1号)は、親子の関係に着目した事由であり、典型的には子に対する虐待のおそれがある場合が考えられます。このような事由が認められる場合には、当該親を親権者と定めることにより子の利益が害されることを防止するため、当該親以外の親のみを親権者と定めるべきであることから必要的単独親権事由とされたものと考えられます)。
A例示的事由(同項2号)
「父母が共同して親権を行うことが困難であると認められるとき」は、父母の関係に着目した事由であり、「父母の一方が他の一方から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動を受けるおそれの有無、第一項、第三項又は第四項の協議が調わない理由その他の事情を考慮して」判断されると定められています(同項2号)。
典型的には、これまで父母の一方が他方からDVを受けており、今後もDVを受けるおそれがある場合が考えられますが、DVに限らず、親権者の定めの協議が調わない理由も考慮要素とされています。
このような事由が認められる場合には、親権の共同行使の前提となる父母間の協議を行うことが実質的に困難となることから必要的単独親権事由とされたものと考えられます。
B包括的事由(同項柱書後段)
@Aが認められない場合も、「その他の父母の双方を親権者と定めることにより子の利益を害すると認められるとき」(同項柱書後段)には父母の一方を親権者と定めなければならないとされています。ただし、@Aが例示と位置づけられていることからすれば、これらに準じるような一定の重大な事情が認められる必要があると考えられます。
(3)判断の構造
このように新民法819条7項は、柱書前段において共同親権・単独親権のいずれを判断するかについて、総合考慮による判断要素を示すとともに、柱書後段において単独親権を定めなければならない必要的単独親権事由を定めています。
このため、裁判所が親権者を定めるに当たり、必要的単独親権事由が認められる場合、裁判所は単独親権を定めなければならず、この場合に共同親権を定めることはできません。
他方で、必要的単独親権事由が認められない場合は、当然に共同親権を定めることになるわけではなく、改めて柱書前段の総合考慮により、共同親権とするか単独親権とするかが判断されることになります。
選択的共同親権制度の導入に伴い、単独親権とすべき場合に共同親権とされてしまうのではないかといった不安や懸念もよく聞かれます。ただ、同制度は、父母の離婚後も、父母双方が適切な形で子の養育に関わりその責任を果たすことが、子の心身の健全な発達のため望ましいとの考えから導入されたものであり、あくまで子の利益の観点から運用されていくことが期待されているものです。
離婚に際した父母間は様々な感情的対立や葛藤がありますが、父母間において単に共同親権にするか単独親権にするかといった微視的な観点で対立をするのではなく、離婚後も子のために父母双方がどのような役割を果たすことが可能かといった巨視的な観点で建設的な協議がされることが望ましく、共同親権、単独親権もそうした離婚後の父母と子の関わり方を構築するためのツールに過ぎません。
今回の改正により、共同親権に限らず、様々な新しい規律が導入されていますが、新たに選択可能になった制度を活用して、子の利益の観点から、父母が新しい家族の形について協議して行くことが重要であると考えられます。
以上









